「やあ、二人とも楽しそうだね。んじゃなんの話をしているか当ててあげよう……食べ物の話でしょ?」
「えっ、すごい! その通りです、どうして分ったんですか?」
「フフ……ちょっとしたカンかな。」
女の子の楽しいお喋りの八割は食べ物の話だってばっちゃが言ってた。ありがとう婆ちゃん。
「実はですねー、こないだこのモールにある杏子ちゃんのお店、「
「中華料理か、いいね。それが美味しかったっていう話?」
「美味しいのはもちろんなんですけど、そこの名物イベントである料理ライブがすごかったんですよー!」
「り、料理ライブ? わざわざ料理してるところを見せるの?」
「それが普通の料理の仕方じゃないんですよ~。かの武闘派料理人・味方正義氏による『味見一見お断り! 爆裂カンフー中華』のライブなんです~!」
「カ、カンフー中華? いや待てよ…。」
たしか空手とブーメランを融合……いや違う、料理とカンフーを融合させた、斬新で奇抜で誰もやりたがらないまったく新しい料理法を編み出した人だ。
火加減を間違えて全身が炎に包まれてもなおチャーハンを炒めていたという伝説があり、それゆえ炎の料理人と呼ばれるようになったとか。
「なんか可愛い妹がいるって話も聞いたな。へえー、あの人がお店に来てたんだ。」
「はい、特別にゲストとして招待されたみたいです。それがすごかったんですよー、「アチョー!」って空中に食材を放り投げて、下で受け止めて普通に切るんです。」
「空中で切るわけじゃないんだ…。受け止めて普通に切るんだ…。」
「それだけじゃないんですよ~。調味料の入った瓶を「ハチャー!」って言いながら手刀で切ると見せかけて、なんと普通に栓抜きで抜くんです~!」
「ああ、また普通に抜くんだ…。じゃあ何の掛け声なんだ…。」
「そして彼の必殺技である「酔拳」も、調味料のお酒を使って出してくれたんですよー! …そのために、料理に使うお酒が足りなくなったんですけど。」
「事前に用意してないのかよ…。思いつきで出したんだよ絶対…。」
「そして極めつけはなんと! 彼は泣き上戸だったらしく、その後泣きながら帰っていったことですね。ちなみに料理は杏子ちゃんが仕上げてくれました~。」
「何しに来たんだよ!? っていうか料理してないじゃんそいつ!」
「スゴかった~」、と瞳をキラつかせる二人。いや確かにスゴい奴だとは思うが。